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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)180号 判決 1995年6月13日

大阪府大阪市北区曾根崎1丁目1番24号

原告

マッシー森田ゴルフ株式会社

(審決表示の商号

大阪森田ゴルフ株式会社)

同代表者代表取締役

森田眞琴

同訴訟代理人弁護士

樽谷進

大阪府高槻市南庄所町2番5号

被告

森田ゴルフ株式会社

同代表者代表取締役

森田美智子

同訴訟代理人弁理士

西村教光

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和60年審判第18476号事件について平成6年6月17日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯等

被告は、「森田ゴルフ株式会社」の文字を横書してなり、第24類(平成3年政令第299号による改正前のもの)「ゴルフクラブ、その他本類に属する商品」を指定商品とする登録第1587315号商標(昭和54年9月21日商標登録出願、同58年5月26日商標権設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

大阪森田ゴルフ株式会社は、昭和60年9月4日、本件商標登録を無効にすることについて審判を請求した。

大阪森田ゴルフ株式会社は、昭和61年10月13日、原告と合併した。

特許庁は、上記請求を昭和60年審判第18476号事件として審理した結果、平成6年6月17日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をなし、その謄本は同年7月4日原告に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  本件商標の構成、指定商品、登録出願日及び登録日は前項記載のとおりであり、現に有効に存続するものである。

(2)  請求人(原告)は、本件商標は商標法(以下単に「法」という。)3条1項4号もしくは6号、4条1項8号に該当する旨主張する。

(3)  よって按ずるに、本件商標は、前記構成のとおりであるところ、これを「森田」「ゴルフ」「株式会社」の各文字に分離すれば、「森田」の文字はありふれた氏であり、「ゴルフ」の文字は業種を表す商号の一部として普通に採択使用されるものであり、さらに、「株式会社」の文字は株式組織の法人がその商号中に普通に使用するものであるから、それぞれの文字自体は、独立しては自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないといえるものである。

しかしながら、本件商標は、被請求人(被告)の商号(名称)を表示したものであって、このように一見して商号と認められる文字は、個人の氏名が氏又は名前のどちらか一方のみによって把握されることがないのと同様に、取引者・需要者の通常の感覚からして、これが単に「森田」の文字のみ又は「ゴルフ」の文字のみとして観察、理解されるとはいい難いものであり、むしろ、全体として被請求人自体の営業を表彰するものとして把握されると判断するのが相当である。また、当審において職権をもって調査するも、該文字がその指定商品についてありふれて使用されている事実は見出すことができなかった。

してみれば、本件商標は、これをその指定商品に使用するときは、取引者・需要者が被請求人の業務に係る商品であることを認識することができる商標、すなわち、自他商品の識別標識としての機能を有するものであるといわざるを得ない。

したがって、本件商標は、法3条1項4号及び同6号のいずれの規定にも該当しないものというべきである。

また、請求人は、「森田ゴルフ」の文字を社名あるいは社名の要部とする「森田ゴルフ商会有限会社」「森田ゴルフ」が存在するから、本件商標は、法4条1項8号に該当する旨主張しているが、該規定でいう「他人の名称」とは、法人・組合等の名称であるところ、その規定中に「これらの著名な略称」と併記されていて、特に著名性を要求されていない趣旨からみれば、法人については、その登記上の記載全体を指すものと解するのが相当である。

そうとすれば、本件商標は、これを構成する「森田ゴルフ株式会社」の文字が被請求人たる法人の名称を表示したものであり、たとえ、「森田ゴルフ商会有限会社」「森田ゴルフ」を名称とする会社が存在するとしても、これと同一でないこと明らかであるから、「他人の名称」には当たらないものであって、さらに、「森田ゴルフ」の文字を他人の名称の略称とした場合においても、請求人はその著名性について何ら主張・立証するところがないから、該商標は、「他人の名称の著名な略称」を含むものということもできない。

したがって、本件商標は、法4条1項8号にも該当しないものといわなければならない。

以上のとおり、本件商標は、法3条1項4号、同6号及び4条1項8号のいずれにも違反してなされたものではないから、法46条1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。

3  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)は争う。

本件商標は、法3条1項4号、同6号及び4条1項8号のいずれにも該当しないとした審決の判断は誤りである。

(1)  本件商標は、ありふれた氏である「森田」、普通名詞である「ゴルフ」、会社の種類を表す「株式会社」を結合したものにすぎず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものである。

したがって、本件商標は法3条1項4号に該当する。

大阪地方裁判所昭和61年(ワ)第3663号商号商標使用差止請求事件、大阪高等裁判所平成元年(ネ)第1841号同控訴事件の各判決において、本件商標の要部は「森田」又は「森田ゴルフ」の部分であると認定され、この認定は上告審(最高裁平成3年(オ)第1389号)においても支持されているのであって、この点からいっても、本件商標につき、「取引者・需要者の通常の感覚からして、これが単に『森田』の文字又は『ゴルフ』の文字のみとして観察、理解されるとはいい難いものであり、むしろ、全体として被請求人自体の営業を表彰するものとして把握される」とした審決の判断は誤りである。

また、本件商標の登録日当時において、商号に「森田ゴルフ」の表示を使用した会社として、「株式会社森田ゴルフ」(本店 大阪市北区、昭和36年1月9日設立)、「森田ゴルフ株式会社西日本本社」(本店 広島市、昭和42年1月24日設立)、「大阪森田ゴルフ株式会社」(本店 大阪市北区、昭和38年7月19日設立)、「株式会社森田ゴルフ」(宮崎市)などが存在したから、本件商標はありふれた名称を表示する標章のみからなるものというべきであり、審決が、「上記文字がその指定商品についてありふれて使用されている事実は見出すことができなかった」とした点も誤りである。

(2)  本件商標の登録日当時において、上記商号の会社が存した他に、「森田」の名を付けたゴルフ用具会社として、「森田プロショップ」(京都府長岡京市)、「森田運動具店」(名古屋市瑞穂区)、「森田ゴルフ商会有限会社」(岡山市)、「森田ゴルフ」(福山市)、「森田博運動具店」(川崎市)など多数あった。

前記大阪森田ゴルフ株式会社は、その名称が長いので、通称森田ゴルフ株式会社と称し、電話帳への広告は、昭和38年以来継続して、「森田ゴルフ」の名称を掲載した。

上記のような事実関係のもとでは、本件商標によって、需要者は何人の業務に係る商品であるかを認識することができない。

したがって、本件商標は法3条1項6号に該当する。

(3)  法4条1項8号にいう「他人の名称」に該当するか否かは、その団体もしくは社会的存在としての特定に必要不可欠な要部によって判断すべきである。

前記「森田ゴルフ商会有限会社」「森田ゴルフ」「株式会社森田ゴルフ」「森田ゴルフ株式会社西日本本社」「大阪森田ゴルフ株式会社」の要部は、いずれも「森田ゴルフ」であるところ、本件商標は「森田ゴルフ」を含むものである。

したがって、本件商標は法4条1項8号に該当する。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1、2は認める。同3は争う。審決の判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

本件商標が法3条1項4号及び同項6号、4条1項8号のいずれにも該当しないことは、審決の説示するとおりである。

なお、法3条1項6号は、商標を構成する標章自体に自他商品の識別機能が存在しない場合に、その商標は登録適格を有しない旨規定したものであるところ、本件商標は、それ自体自他商品の識別標識としての機能を有するものであるから、原告主張の複数の商号または屋号が存在していたとしても、本件商標が同号に該当するということにはならない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

1  請求の原因1、2及び審決の理由の要点(1)、(2)については、当事者間に争いがない。

2  そこで、審決取消事由の当否について検討する。

(1)  本件商標が法3条1項4号に該当するか否かについて検討する。

<1>  法3条1項は、自他商品の識別標識としての機能を有しない商標の登録を認めないことを規定しているところ、いわゆる商号商標において、法人組織を表す部分には格別識別力がなく、現実の取引においても、上記部分は省略して認識されることが少なくないものと考えられることからすると、本件商標が法3条1項4号に該当するか否かは、「株式会社」の部分を除いた「森田ゴルフ」の部分がありふれた表示と認められるかどうかによって判断すべきものと解するのが相当である。

原告は、本件商標は、ありふれた氏である「森田」、普通名詞である「ゴルフ」、会社の種類を表す「株式会社」を結合したものにすぎないことを理由として、上記条項に定める商標に該当する旨主張する。

確かに、「森田」という氏はありふれたものであり、また、「ゴルフ」は球技の一つを表す普通名詞であるうえ、「株式会社」が格別識別力を有しないことは上記のとおりであるが、このことから当然に本件商標が上記条項所定の商標に該当するものとするのは相当でなく、「森田」と「ゴルフ」が結合した「森田ゴルフ」の表示を基準として本件商標の識別性を判断すべきであって、原告の上記主張は採用できない。

<2>  ところで、成立に争いのない甲第2号証、第16号証ないし第18号証、第35号証によれば、昭和36年1月9日に「株式会社森田ゴルフ」(本店 大阪市北区神明町)が設立されたが、同38年6月30日に解散したこと(同年7月17日登記)、同社は、昭和61年6月29日に会社継続することとなったが(同年7月25日登記、本店は兵庫県川西市に移転)、同年9月30日に商号を「マッシー森田ゴルフ株式会社」と変更したこと(同年10月2日登記)、株式会社森田ゴルフを解散したことから、昭和38年7月19日に、同社の本店所在地に「大阪森田ゴルフ株式会社」が設立されたが、同社は、昭和61年10月2日上記マッシー森田ゴルフ株式会社に合併されたこと(同月13日登記)の各事実が認められる。また、成立に争いのない甲第31号証によれば、昭和53年2月25日ユニバーサルゴルフ社発行の「78年版ゴルフ用品総合カタログ」には、全国ゴルフ用品業者として、「森田ゴルフ製作所」(静岡県伊東市)、「森田ゴルフ」(名古屋市中区)、「大阪森田ゴルフ」(大阪市北区)、「森田ゴルフ」(大阪府高槻市)、「森田ゴルフ商会」(岡山市)、「森田ゴルフ販売福岡支店」(福岡市)という社名あるいは屋号が記載されていることが認められる。

なお、弁論の全趣旨によれば、原告主張に係る「森田ゴルフ株式会社西日本本社」は被告の支店であることが認められる。

原告は、本件商標の登録日当時、ゴルフ用具会社として、上記の他に、「株式会社森田ゴルフ」(宮崎市)、「森田ゴルフ」(福山市)が存在した旨主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。

上記認定の事実によれば、本件商標の登録日(昭和58年5月26日)当時においても、社名あるいは屋号に「森田ゴルフ」の名称を含んだものとして、「株式会社森田ゴルフ」「大阪森田ゴルフ株式会社」「森田ゴルフ製作所」「森田ゴルフ」「森田ゴルフ商会」「森田ゴルフ販売福岡支店」など複数存在したものと推認されるが、株式会社森田ゴルフは解散手続中であったこと、大阪森田ゴルフ株式会社については、その識別力からいって「大阪森田ゴルフ」と認識されることが少なくないものと考えられること(ちなみに、成立に争いのない甲第8号証ないし第10号証、第11号証の1・2、第12号証ないじ第14号証によれば、「大阪森田ゴルフ株式会社」なる商標は本件商標の出願より後の出願に係るものであるが、設定登録されていることが認められる。)、前記カタログに記載されている大阪府高槻市所在の「森田ゴルフ」は被告のことであること、及び前記カタログにゴルフ用品業者として掲載されているものは約970社であることを総合すると、本件商標中の「森田ゴルフ」の表示が、自他商品の識別力を有せしめないほどにありふれたものであるとまでは認め難い。

したがって、本件商標が法3条1項4号に該当するものということはできない。

(2)  本件商標が法3条1項6号に該当するか否かについて検討する。

<1>  本件商標の登録日当時、商号中に「森田ゴルフ」の名称を含んだものが複数存在したことは前記(1)に認定のとおりである。また、成立に争いのない甲第15号証の1ないし7、同号証の10ないし15によれば、昭和54年2月1日日本電信電話公社発行の「大阪府職業別電話帳」には、「大阪森田ゴルフ」と表示した前記大阪森田ゴルフ株式会社の広告が掲載されていること、昭和55年8月1日、同57年2月1日各発行の「大阪府職業別電話帳」、及び昭和55年3月1日、同56年9月1日、同58年3月1日各発行の大阪市他の「職業別電話帳」には、「森田ゴルフ」と表示した大阪森田ゴルフ株式会社の広告が掲載されていることが認められる。

<2>  ところで、法3条1項6号(平成3年法律65号による改正前のもの)は、「需要者がその商品が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない」ことを商標の不登録事由としているものであって、必ずしも需要者がその商品が特定の者の業務に係るものであることを認識することができることまでも必要としているわけではないものというべきところ、前記(1)に説示のとおり、本件商標における「森田ゴルフ」の表示は、自他商品の識別力を有せしめないほどにありふれたものとまでは認め難いのであって、上記<1>に認定の事実をもってしても、本件商標が上記条項に定める商標に該当するものということはできない。

(3)  本件商標が法4条1項8号に該当するか否かについて検討する。

法4条1項8号にいう「他人の名称」は、自己以外の法人の名称をいうものであるところ、同号は、他人の名称の著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く)を登録適格を有しないものに挙げている。ここで、株式会社の商号についてみると、株式会社の文字を除いた部分が同号にいう「他人の名称の略称」に該当するものと解すべきであり、「他人の名称」は、株式会社の文字を含めた商号全体を指すものと解するのが相当である(最高裁昭和57年11月12日判決、民集36巻11号2233頁参照)。

しかして、本件商標の登録日当時、被告以外の他人の名称として「森田ゴルフ株式会社」が存在したことを認めるに足りる証拠はないから、本件商標は他人の名称を含む商標であるとは認められない。

また、「森田ゴルフ」が被告以外の他人の名称の略称として著名であることを認めるに足りる証拠はなく、本件商標は、他人の名称の著名な略称を含む商標であるということもできない。

したがって、本件商標は法4条1項8号に該当しない。

(4)  以上のとおりであるから、本件商標は、法3条1項4号、同6号及び4条1項8号のいずれにも該当しないとした審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

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